【現地取材】宇宙の始まりを覗く、超巨大電波望遠鏡の建設現場へGO!

早速ですが、こちらの写真をご覧ください!

クリスマスツリーのようなこの物体は、宇宙からやってくる電波をとらえるアンテナです。西オーストラリア・マーチソンの原野、先住民であるワジャリ・ヤマジ族の方々が住む地域に、このアンテナは立っています。この地域はFMラジオや航空無線など私たちの普段使っている電波が届かないため、宇宙からの電波を観測するのに適しています。このアンテナがなんと13万本以上並ぶという、壮大な望遠鏡建設計画が進行中です。

建設が進む現地を2024年10月、ガリレオライターの伊東が訪れましたので、その様子をツアー形式でご紹介します!

ツアーに出発する前に

ツアーに出発する前に、まずはこの望遠鏡について少しだけ予習をしていきましょう。

現在建設中のこの電波望遠鏡は、SKA-Lowと名付けられています。
SKAは「Square Kilometer Array」(平方キロメートル干渉計)の略語で、16のパートナー国が参加する政府間組織であるSKA天文台によって建設が進められています。
名前に Low (低い) とあるのは、低周波の電波(50~350MHz)を観測することを表します。
SKA天文台は、SKA-Midと呼ばれる350~15.4GHzの電波を観測する望遠鏡も南アフリカに建設中です。

Square Kilometer Array

SKA Lowまでの道のり

西オーストラリア州の州都パースから北に約420キロ、ビッグマーブルと呼ばれるオブジェが有名な港町ジェラルトンが旅の出発地点です。

ジェラルトンの観光名所、ビッグマーブル

ジェラルトンからSKA-Lowの建設現場までは、車でおよそ5時間ほどです。
道中は見渡す限りの雄大な原野であり、スマホはずっっっと圏外です。
時々道路の近くを通る野生のカンガルーを見かけました。さすがオーストラリアですね。

道中の風景。原野がどこまでも広がっている。
パース、ジェラルトン、およびSKA-Lowの建設現場であるインヤリマナ イルガリ ブンダラ,CSIROマーチソン天文台の位置関係
画像引用元 : https://research.csiro.au/mro/wp-content/uploads/sites/453/2024/04/WA-Observatory-brochure-March-2024.pdfより改編。

SKA-Lowが建設中の観測所に到着

車に揺られること5時間、ついにSKA-Lowの建設場所であるインヤリマナ イルガリ ブンダラ, CSIROマーチソン天文台に到着しました。

「インヤリマナ イルガリ ブンダラ」 という天文台の名称は「宇宙と星を分かち合う」という意味であり、この地の伝統的な所有者かつ先住民権の所有者であるワジャリ・ヤマジ族の方々から贈られたものです。
正確な発音については、こちらのページにおいて紹介されています。

天文台の入り口にある看板。天文台のある地域は不感地帯(Radio Quiet Zone)であり、電波を発する機器の使用に制限があると警告している。

SKA-Lowツアー

それではいよいよSKA-Lowを観に行きましょう!まずはSKA-Lowのアンテナと対面です。

いかがでしょう。伝わるでしょうか?この大きさ。
SKA-Lowに使われるアンテナは高さなんと2メートル。真横に立つとかなりの迫力です。
こんなものが13万本以上も立ち並ぶことになるなんて。
早く完成したSKA-Lowをこの目で見てみたいものです。

近くには組み立て前のアンテナパーツが並べてありました。
アンテナは現地で1つ1つ手作業にて組み上げられています。

SKA-Lowのアンテナは、クリスマスツリーのような形が特徴的です。
このアンテナは対数周期双極子(ログペリダイポール)と呼ばれています。
一番上の小さい三角形から、一番下の大きな三角形まで、様々な大きさの三角形の歯(ダイポール)が組み合わさった形をしています。
この三角形の歯はサイズが大きいほど低い周波数を受信でき、小さいほど高い周波数を受信できます。
そのため、50 MHzから350 MHzまでの広い周波数帯を受信するために、歯の大きさを段階的に変えています。

SKA-Lowにおいては、これらのアンテナが256本ごとの「ステーション」と呼ばれるグループに分けて配置されます。
SKA-Lowでは512個のステーションの建設が予定されているため、全部で131,072本のアンテナが80キロメートル四方の広さに立ち並ぶことになります。
ステーションのうち半数以上はSKA-Low中心から半径1キロメートル以内の場所に密集して設置されています。
この部分をコアと呼びます。
そこから、螺旋状に腕を伸ばすような形でステーションは配置されます。

建設中のSKA-Low。手前と奥には既にステーションが完成している。
Image credit: SKAO (licensed under CC BY 3.0)

SKA-Lowのアンテナ配置予定図。1つの点は6つのステーションからなるクラスターを表す。
画像引用元:https://www.skao.int/en/science-users/118/ska-telescope-specifications

それでは実際に2024年10月時点でのコアの様子をみてみましょう

ショベルカー!ブルドーザー!トラック!

コアではたくさんの重機が整地の真っ最中でした。
写真からでも整地された土地の広さが伝わってくるでしょうか?
将来的にはここに無数のアンテナが立つことになるなんて、想像するだけでワクワクしてきますね。

SKA-Lowの建設現場はワジャリ・ヤマジの人々にとっても重要な土地であるため、整地作業は彼らの文化遺産を壊さないよう慎重に行われています。
作業にはワジャリ・ヤマジの代表が立会い、土地の文化的価値が守られていることを常に確認しています。

場所によっては整地が完了し、地面に丸く金網が敷いてありました。
今後はその上に256本のアンテナが「1つのステーション」として設置される予定です。
この金網はアンテナの土台であるとともに、アンテナの受信範囲を制限することで地上からの人工電波の干渉を抑えるという大事な役割も果たしています。

地面に落ちているカラーコーンから、そのスケール感が伝わるでしょうか。
一つのステーションですらこんなに大きいんです!

Image credit: DISR

SKA-Low完成予想図はこのようになっています。
将来の電波天文学者はこのような風景を見ることになるんですね。

SKA-Lowの目指すもの

このSKA-Low、一体どんな宇宙の謎を解き明かそうとしているのでしょうか?それは大きく分けて2つあります。

  1. 宇宙の夜明けと再電離の探査
    SKA-Lowが特に注目しているのは、宇宙が生まれて最初の10億年間。
    この時期に、最初の星や銀河がどうやってできたのか、そして宇宙空間にあったガスがどのように変化したのか(これを「再電離」と呼びます)を研究します。
    水素原子が出す「21cm線」という電波を観測することで、初期の宇宙がどんな姿をしていたのか、どんな風に進化してきたのかを明らかにするのが目標です。
  2. 広範囲のパルサー探索
    パルサーとは、正確なリズムで光を放射する灯台のような特徴を持った天体です。
    パルサーは、この規則正しい「光」を活かして重力波の観測や、宇宙空間における磁場の様子を調べることに利用されています。
    これらのより正確な観測のためには、より多くのパルサーを発見することが重要となります。
    SKA-Lowは、 低周波ほど明るくなるというパルサーの特性を元に、銀河面をのぞく広範囲でパルサーの捜索を行います。

最近のSKA-Low

現在、SKA-Lowにおいては完成している幾つかのステーションを用いた観測が行われています。
2025年の3月、SKA天文台はSKA-Lowにおける1024本のアンテナを用いて観測された夜空の画像を公開しました。

Image credit: SKAO (licensed under CC BY 3.0)
画像引用元:https://www.skao.int/en/news/621/ska-low-first-glimpse-universe

公開された画像はおよそ25平方度、月が100個ぶんほどの広さです。
参考となる月の大きさが右上に描かれていますね。
画像にうつる点は星のようですが、その正体は電波で光る銀河たちです。
現在は明るい85個の銀河しか見えていませんが、完成したSKA-Lowは同じ視野内に60万個以上の銀河をとらえることができると予測されています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今しかみられないSKA-Lowの姿、そしてSKA-Lowが完成することに対するワクワク感、少しでも皆様に伝えることができたら幸いです。完成の日が待ち遠しいですね!
以上、SKA-Low現地ツアーでした!

SKA-Lowコアの様子をもっと見たい方は、こちらの動画をご覧ください

https://youtu.be/C1j72K2Qb18SKA

参考文献

熊本大学大学院 博士後期課程3年
長崎県出身。大学では天の川銀河、大学院では宇宙論に関わる研究を行う。天文教育普及活動にも積極的に取り組んでおり、天文教育カードゲーム「SPACE FIGHT」を開発。
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