現代宇宙論の幕開け:一般相対性理論と膨張宇宙の発見

アインシュタインの一般相対性理論から幕を開けた宇宙論。そして、ハッブル・ルメートルの法則が示す膨張宇宙の発見。本記事では、これらの要素を解説しながら、宇宙の進化とその背後に潜む謎に宇宙論がどう取り組んでいるのかを紹介します。

宇宙論のはじまり

人類が宇宙について考えてきた歴史は長く、今から2000年前の古代ギリシャ時代には、地球を中心として太陽やその他の惑星が周っている「天動説」が考え始められました。

それから約1600年の期間を経て、地球ではなく太陽を中心として、その周りを惑星が公転している「地動説」というアイデアが出てきました。

17世紀にはアイザック・ニュートンにより、太陽と地球を始めとした惑星間の間に万有引力が働いていることが提唱され、ニュートンの提唱した運動法則と万有引力を考えることにより、太陽の周りを回転する惑星の運動を理解することができました。これが近代的な宇宙の理解です。

それから約250年の時を経て20世紀に入り、現代的な宇宙論が幕を開けます。

突然「宇宙論」という単語が出てきましたが、宇宙論とは「宇宙自身の進化や構造について研究する学問分野」です。

例えば、「宇宙の歴史はどうなっているのか?」「宇宙の中身はどうなっているのか?」「宇宙の未来はどうなるのか?」などの問いを科学的な手法を用いて研究します。

一般相対性理論

現代的な宇宙論研究の口火を切ったのは、20世紀の天才物理学者アルバート・アインシュタインです。

アインシュタインは1915年から1916年にかけて一般相対性理論に関する一連の論文を発表しました。
一般相対性理論と聞くと、「名前を聞いたことあるけど、どういう理論なのか分からない」という方もいるかもしれません。

一般相対性理論を一言で言ってしまうと、「時空(時間と空間)と物質に関する理論」です。
これだけだと分かりづらいと思うので、実際に数式を示して説明した方が良いかもしれません。
下にアインシュタイン方程式(重力場の方程式)を示します。

何やら難しそうな数式ですが、この数式の意味を理解することはそこまで難しいことではありません。

アインシュタイン方程式の左辺は「時空の曲がり具合」を表しています。一方で右辺は「宇宙に存在する物質(エネルギー)の分布」を表しています。
方程式の等号によって、これらが結びついているので、アインシュタイン方程式は「物質があると、時空が歪む」ということです。

これだと、まだちょっと分かりづらいですね。下図を御覧ください。

時空のゆがみ | ギャラリー | 国立天文台 重力波プロジェクト推進室

物質によって時空が歪むイメージ図https://gwpo.nao.ac.jp/gallery/000027.html より

これは物質と時空の様子のイメージを掴むために描かれた図です。時空に物体が存在していますが、よく見ると、物体の周りの時空は歪んでいますね。

すなわち、物体が存在することで周囲の時空が歪んでいるのです。そして、この時空の歪みは重力として現れます。

すなわち、一般相対性理論では「重力は時空のゆがみ」として理解されるのです。

宇宙を記述する方程式 – フリードマン方程式

ところで、宇宙というのは空間がどこまでも広がっており、さらに時間が流れています。
つまり、宇宙とは時空そのものであるので、アインシュタイン方程式を宇宙に適用したらどうなるか?と考えるのはごく自然な発想です。

実際にこの発想に基づいて、宇宙全体にアインシュタイン方程式を適用して得られた宇宙の進化を記述する方程式をフリードマン方程式と言います。

フリードマン方程式。時空の進化と宇宙に存在する物体を結びつけている。

フリードマン方程式を解くと、宇宙の進化の振る舞いについての解を得ることができ、その中の一つに「宇宙が時間と共に膨張する」という解があります。
すなわち、過去から現在に渡って、宇宙がどんどん大きくなっていくというものです。

アインシュタインは、当初、この「膨張宇宙」という考えが自分の思想信条と合わず、「宇宙は常に変化しない静的なものであるべし」との理由で、「宇宙定数項」を導入し、「静止宇宙」を考えようとしました。

膨張する宇宙のイメージ。右側に行くほど現在の宇宙を表している。
https://www.science-sparks.com/how-does-the-universe-expand/

しかし、1929年にエドウィン・ハッブルは銀河までの距離と、その銀河の遠ざかる速度の間に、「遠くにある銀河ほど、遠ざかる速度は早い」という法則があることを発見します(最近では、ジョルジュ・ルメートルも1927年に同様な結論を導いていた事が分かっている)。

この法則は発見者の名を冠して、「ハッブル・ルメートルの法則」と呼ばれています。

ハッブル・ルメートルの法則。遠くにある銀河ほど後退速度が早く、後退速度は銀河までの距離に比例する。 
https://astro-dic.jp/hubble-lemaitre-law/ より

銀河の距離と速度を測定

ところで、銀河までの距離と、銀河の遠ざかる速度はどのようにして測られたのでしょうか?
実は、天文学において天体までの距離を測定するというのは困難な作業の一つです。もしも宇宙のサイズを測れる物差しがあれば、色々な星までの距離を簡単に測定することができますが、実際にはその様な物差しはないので、星までの距離を測定するためには工夫しないといけないのです。

宇宙での距離測定について紹介するだけでも記事が1本書けるのですが、ここではハッブルがどの様にして銀河までの距離を測定したのか概略だけ説明します。

星の中には、「変光星」と呼ばれる周期的に明るさが変化する星があり、不思議なことに周期と星の光度の間には、線形関係(直線的な関係)が成り立つ事が知られています。

変光星の周期と光度の関係。横軸が変光星の周期、縦軸が変光星の光度を表しており、この2つには直線関係が見て取れる。 
https://www.spitzer.caltech.edu/image/ssc2012-13a-cepheids-as-cosmology-tools より

つまり、星の明るさが変化する周期を測定することによって、星の光度を知ることができるのです。

また、星の光度とその星までの距離の間にもシンプルな関係があるので、星の光度が分かると、その星までの距離を知ることができるのです。
すなわち、銀河に含まれている変光星の周期を測定することで、その星が含まれている銀河までの距離を測定することができるのです。
ハッブルはこの方法を用いて銀河までの距離を測定しました。

次に、銀河の遠ざかる速度をどの様に測定するかですが、その話の前に、ちょっと救急車について考えてみましょう。

救急車が路上を走っている時のサイレンを誰しも一度は聞いたことがあるかと思いますが、救急車が遠ざかる時と近づく時でサイレン音に違いがある事に気づくと思います。
これは、「ドップラー効果」と呼ばれる現象で、音源(ここでは救急車)がこちらに向かってくるか遠ざかってくるかで音源から発せられる音の波長(あるいは振動数)が変化するのです。

ここでは、音の場合を例に出しましたが、光(正確には電磁波)でも同様な事が起きます。
量子力学と呼ばれるミクロな世界を記述する物理法則によると、物質にはある特定の波長の光を放射したり吸収したりする性質があります。
この波長は、物質によって異なり、1つの物質がいくつかの波長の光を放射・吸収することもあります。
例えば、宇宙に多く存在している水素は、波長が21cm線の電波や、波長が121.6ナノメートルの紫外線を放射したり吸収したりします。

この様に、「原子の指紋」とも呼べる、物質に固有な特定の波長の光のことを「線スペクトル」と言います。

(スペクトルの例。太陽や電灯の光は連続したスペクトルを持っているので連続スペクトルと呼ばれている。一方、ネオン、水素、水銀、ナトリウムは、特定の波長で光の強度が強くなっており、(輝)線スペクトルを見ることができる。 http://member.tokoha-u.ac.jp/~kuninaka/renewal/spectrum.htm より)

線スペクトルは銀河の運動によってドップラー効果が起き、線スペクトルの現れる波長が変化します。

例えば、銀河が我々から遠ざかっている場合、先程の21cm線の電波の場合は、ドップラー効果によって波長が長くなりますし、逆に、銀河が我々に近づいてくる場合は、波長が21cm線よりも短くなります。

そして、どれだけ波長が長くなったり短くなったりするかは銀河の運動速度によって決まります。
すなわち、光のドップラー効果による波長の変化を測定することができれば、銀河の運動速度を決定することができ、この方法を用いることでハッブルは銀河の後退速度を測定することができたのです。

余談ですが、この様な、ある特定の波長の光を解析する手法のことを分光(スペクトル)分析と呼び、19世紀に天体観測に導入されました。21世紀の現在は、分光装置がさらに発達し、運動速度の僅かな変化によるドップラー効果の検出が可能となり、天文学の至る分野でスペクトル分析の技術が使われています。
https://prc.nao.ac.jp/extra/uos/ja/no04/

上に述べた方法で導き出された「ハッブル・ルメートルの法則」は、膨張宇宙を考えると説明できるため、アインシュタインが支持した「静止宇宙」は観測的に否定されることになりました。

しかし、現代では、加速膨張する宇宙を説明するために「ダークエネルギー」が考えられており、そこで宇宙定数項が再び復活しています。

ダークエネルギーに関する話は、また別の記事で紹介することにします。

さて、膨張宇宙からは一つ重要な予想が得られます。時間とともに宇宙が膨張しているということは、「時を巻き戻し、過去に行くほど宇宙は小さかった」ということです。

そして、その様な小さかった宇宙では物質がぎゅうぎゅうに押し込められているので、高温で高密度状態であった事が予想されます。この様な高温・高密度な宇宙は「ビッグバン」と呼ばれています。次回は、ビッグバンについて紹介します。

(参考文献)

「現代宇宙論の誕生」 (岩波文庫)https://amzn.to/46CyZbv 
「ブラックホール・膨張宇宙・重力波」https://amzn.to/3LPWuWG  

云南大学西南天文研究所副教授 / 天文学者
沖縄県出身。東北大学理学部卒。名古屋大学にて博士号(理学)取得。パリ天文台、清華大学でのポスドク研究員を経て、現在、云南大学西南天文研究所にて副教授。専門は観測的宇宙論。
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