国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」は2019年、楕円銀河M87の中心にある巨大ブラックホールの撮影に世界で初めて成功し、大きな話題となりました。そしてこのたび、その1年後の2018年4月に観測されたM87ブラックホールの新たな画像が公開されました。
Credit: EHT Collaboration
国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」は2017年4月、史上初となる巨大ブラックホールの撮影に成功し、大きな注目を集めました。そのブラックホールは地球から約5500万光年離れた楕円銀河M87の中心に位置しています。今回EHTチームは、初撮影から約1年後の2018年4月に観測した新たな画像を公開し、その詳細を科学雑誌『アストロノミー・アンド・アストロフィジクス』に発表しました。
1年を経た観測では、初撮影時と同じ大きさの輪郭が再現されました。輝くリングに囲まれた中心部の暗い領域は「ブラックホールシャドウ」と呼ばれ、一般相対性理論から予言されていたものです。ブラックホールの質量と距離が短期間で変化しないことから、リングの直径が変わっていないのは理論的に予測された通りの結果でした。
一方で、リングの最も明るい場所が2017年と比べて約30度ずれていたのは興味深い発見です。これはブラックホール周辺のガス雲が乱流的に運動していることを示唆しており、ブラックホールに引き込まれる物質の複雑な振る舞いを反映していると考えられます。
また、リングの明るい場所の方向が、ブラックホールから遠く離れた場所で観測されるジェットの方向と近いことがわかりました。このことから、ブラックホールの自転がジェットの形成に関与している可能性が示唆されます。
2018年の観測では、EHTの観測網に新たにグリーンランド望遠鏡が加わり、データ記録速度も2倍に向上しました。これにより画像の質が大幅に改善され、より詳細な解析が可能になりました。
今回の成果は、ブラックホールの存在を再確認しただけでなく、ブラックホール周辺で起こる時間変動現象の研究の重要性も浮き彫りにしました。国際チームは今後も観測を継続し、EHTの性能をさらに高めていく計画です。新しい望遠鏡の追加やより高い周波数での観測により、ブラックホールとその極限環境の理解が飛躍的に深まることが期待されています。
ブラックホールは、強い重力のために光さえも脱出できない天体です。今回の画像は、ブラックホールに引き込まれる物質が光り輝く様子を捉えたものであり、ブラックホール自体を直接写したわけではありません。それでも、一般相対性理論の予言を検証し、ブラックホール周辺の複雑な物理現象に迫るうえで、EHTのような「地球サイズの電波望遠鏡」による観測は非常に重要です。今後の研究の進展が大いに期待されます。
参考資料