月

月面天文台で探る宇宙の謎

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、2028年の試験観測を目指している月面天文台。月でしかできないサイエンスや、月に天文台を作るメリットをまとめてご紹介します。

はじめに

2024年5月17日に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が月面にて天体観測を行う月面天文台の設置方針を示しました。月面に棒状のアンテナなどを複数設置し、2028年の試験的観測を目指すとのことです。

月面に設置されるアンテナを備えた観測装置のイメージ
Credit: JAXA

月面での観測装置の設置は、2023年の内閣府の宇宙基本計画の中にも盛り込まれており、これから本格的に月面での観測装置の建設に向けた準備が進むことが期待されます。
本記事では、月面に観測装置を置くメリットと、月面から迫る宇宙の謎についてご紹介します。

月面で観測する意味とは

大気の影響

月と地球の大きな違いは、大気の有無です。
宇宙からの電磁波は、波長によって大気に吸収・反射され、地上に届かないものがあります。

電波の窓と呼ばれる電磁波の大気通過率
可視光と1mm-10mの電波以外はほとんど地上に届かない
 ESA/Hubble (F. Granato)

特にX線、赤外線、20m(15MHz)以上の長波長電波はほとんど地上まで届きません。
有名な望遠鏡が高地に建設されているのは、できるだけ空気の薄いところで、この大気の影響をできるだけ小さくするためです。
また、宇宙に望遠鏡を打ち上げたり、気球を使うことで地上に届かない電磁波の観測を行っています。

赤外線観測のためのスピッツァー宇宙望遠鏡
Credit: NASA/JPL-Caltech
電波望遠鏡ALMA

一方で月には大気がないため、様々な電磁波を月の地上で観測することができます。

地球からの電波の影響

地球上では、ラジオや携帯電話など、我々人間が通信のために様々な周波数の電波を使っています。
これらの人工的な電波が、非常に小さいシグナルを検出しようとしている天文学にとって大きなノイズになってしまいます。

月を見れば常にうさぎの形が見えることからもわかるように、月は常に同じ面を地球に向けています。
そのため、月の裏側には地球から放たれる電波の影響を完全に避けることができます。
これにより、非常に微弱な天体からの電波を検出することが可能になります。

非常に長い夜

月の1日はおよそ28日間。つまり、夜は実に14日間も続きます。
これは地球上での最大連続観測時間(12時間程度)と比べ、格段に長い時間です。長時間の連続観測により、変動する天体現象をとらえたり、微弱な信号を積算して検出したりすることが可能になります。

月面望遠鏡でのサイエンス

月面の環境は、地球と比較して様々なメリットがあり、宇宙からのより微弱なシグナルが観測できる可能性があることを見てきました。
それでは、そのような環境で進展が期待されるサイエンスにはどのようなものがあるでしょうか。

21cm線を用いた宇宙の暗黒時代の解明

宇宙が始まってから一番最初の星が生まれるまでの1億年の間は、星が放つ光が存在しないことから宇宙の暗黒時代とよばれています。
光を放つ天体がないため、この時代からの電磁波は未だ観測されたことがなく、天文学最後のフロンティアとも言われます。

星ができる前は、中性水素と少量のヘリウムだけが宇宙空間に漂っていたと考えられていますが、この中性水素から放射される21cm線と呼ばれる電波を観測することで、暗黒時代の水素ガスの分布や、宇宙の発展がわかるのではと期待されています。

生命が存在可能な惑星の探索

太陽系外の惑星で生命を発見することは、現在の天文学の中心的な課題です。
生命の痕跡を探る最も有望な方法は、近くの恒星を周回する地球に似た惑星の大気中に含まれる、生命存在指標(O2、O3、CH4、CO2などのガス)のスペクトル観測です。

ただし、惑星にとって磁場の存在も非常に重要です。磁場がないと、生命に有害な放射線が降り注いだり、大気を惑星内に保持できず大気が宇宙空間に流出する可能性があります。
磁場を持つ惑星は、低周波数の電波を放射することが知られていますが、シグナルが非常に弱く、検出のためには宇宙での観測が必要になります。

月面天文台が拓く宇宙観測の新時代

宇宙望遠鏡の打ち上げによって、人類は地上観測の制約を飛び越え、これまでだれも見たこともない宇宙の姿を知ることになりました。
また、様々な新事実を明らかにし、科学史に残る成果を生み出し続けています。

月面天文台も、それら宇宙望遠鏡と同様に、人類がいまだ見たことのない宇宙の姿を見せ、我々が住む世界の謎を解き明かす存在になることは間違いありません。


参考資料

https://www.scienceinschool.org/article/2010/alma
https://www.isas.jaxa.jp/home/research-portal/people/2023/0703
https://www.jaxa.jp/article/special/lunar/mizutani2_j.html
https://arxiv.org/abs/2205.05745
https://www.colorado.edu/project/lunar-farside
https://arxiv.org/abs/1907.05407

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