云南大学中国西南天文研究所の島袋准教授は今、宇宙最大の謎の一つに挑んでいます。138億年前のビッグバンから始まった宇宙で、最初の星々はいつ、どのように誕生したのか。その解明に向けた最新の研究について伺いました。
「宇宙暗黒時代」を解き明かす鍵
──現在の研究について教えていただけますか?
「宇宙には、まだ星が一つも存在しなかった『宇宙暗黒時代』という時期がありました。その後、宇宙で最初の星々が誕生する『宇宙の夜明け』が訪れます。私はその様子を『21cm線』という特殊な電波を使って調べる研究をしています」
──21cm線とは、どのような電波なのでしょうか?
「水素原子から放射される特殊な電波です。宇宙の晴れ上がりから宇宙の夜明けまでの時代、宇宙は水素原子で満ちていました。この水素原子から放射される21cm線を観測することで、まだ誰も見たことのない宇宙最古の時代を探ることができるんです」
パリ天文台での革新的な研究
──パリ天文台での研究が転機になったと伺いましたが。
「はい。パリ天文台で機械学習(AI)を研究に導入したんです。これは私の研究分野では初めての試みでした」
──具体的にはどのような研究だったのですか?
「21cm線の観測データから宇宙の情報を読み取るのは非常に複雑な作業なんです。そこで、大量のデータを効率的に解析できる機械学習の手法を取り入れました。予想以上の成果が得られて、本当に感動しましたね」
月面からの新たな挑戦へ
──最近注目している研究の動向はありますか?
「月面電波望遠鏡の計画に大きな期待を寄せています。実は地球上では、人工電波や地球の電離層の影響で、低周波の電波観測が難しいんです」
──月面なら、その問題が解決できるのですか?
「はい。月では人工電波の影響がほとんどなく、電離層もありません。そのため、地球では観測困難な『宇宙暗黒時代』の観測も可能になると期待しています」
宇宙物理学の新時代へ
──この研究が進展すると、どのようなことがわかるのでしょうか?
「宇宙で最初の星々がいつ、どのように誕生したのか。その過程で、現在の宇宙の姿がどのように形作られていったのか。人類の『私たちはどこから来たのか』という根源的な問いに、新たな答えを提示できると考えています」
実は21cm線による宇宙研究は、まだ始まったばかり。
「私たちは新しい窓から宇宙を覗き始めたところなんです」と、目を輝かせながら語ります。
研究の醍醐味と課題
──研究の難しさや面白さを教えていただけますか?
「うまくいかないことの方が多いですね。でも、時々、良いアイデアが降ってきて、それを実際に試してみるときが最高に楽しいんです」
──一人で黙々と研究されているイメージですが…
「いえいえ、全く逆なんです。誰かと研究を進めたり、雑談の中からアイデアが生まれることが多いんですよ。特に学生との議論は刺激になります。彼らの新鮮な視点が、研究の突破口になることも少なくありません」
宇宙最古の謎に挑む研究は、実は多くの人々との協働から生まれているのです。
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