「木星へと向かう探査機が、地球が居住可能な天体であることを確認した」。いったいどういう意味でしょうか?
ESA (欧州宇宙機関) の木星の氷衛星探査機「Juice (木星氷衛星探査計画)」は、2031年に木星に到達し、生命がいるかもしれないと期待されている主要な氷衛星を詳細に観測する予定です。Juiceは重力アシストを目的とし、2024年8月に地球へとフライバイしました。
Juiceはこのフライバイの際、観測機器の動作テストを兼ねて地球大気を観測し、生命に欠かせない複数の物質を観測し、地球は生命をはぐくむのに適した環境を持つ事を確認しました。このテストは、木星の氷衛星という本番に向けた重要なマイルストーンです。
氷衛星の詳細な探査を行う「Juice」
地球は今のところ、生命が存在することが分かっている唯一の天体です。
しかし地球の生命の多様性は、他の天体でも生命は存在可能であることを示唆しています。
例えば、光が届かない深海には、海底から噴出する熱水に含まれる物質を代謝して生きる生命が見つかっています。
太陽系の外側には、水の氷を主体とする氷衛星が複数あります。
氷天体は文字通り表面は凍結していますが、内部まで凍っているかについては議論があります。
惑星から受ける潮汐力によって内部が加熱されれば、氷は融け、熱水が噴き出すような火山活動も起きているのではないかと考えられています。
このような環境は地球の深海とそっくりなため、その天体独自の独自の生命が存在してもおかしくはありません。
このことから、氷衛星は地球外生命がいるかもしれないと考えられる探索対象として注目を集めています。
ESAの探査機「Juice」は、名前の通り氷衛星を探査の主目的として掲げています。
2023年4月に打ち上げられたJuiceは、2031年6月に木星の周回軌道に到達し、木星の主要な氷衛星であるガリレオ衛星の「エウロパ」「ガニメデ」「カリスト」を詳細に観察する予定です。
特にガニメデは、Juiceが2034年12月から周回軌道に乗る計画であり、成功すれば月以外の衛星で初めて人工物が周回軌道に乗ることになります。
答えが明らかな天体で観測機器をテスト
Juiceは木星に一直線に向かうのではなく、重力アシストを目的として何度か別の天体に接近します。
地球には3回接近する予定であり、1回目が2024年8月に実施されました。
この接近の際、Juiceは観測機器観測機器は「MAJIS (可視・近赤外撮像分光計)」と「SWI (サブミリ波観測機)」を稼働させて地球大気の観測を行い、生命が存在するのに重要な「CHNOPS元素」 (炭素・水素・窒素・酸素・リン・硫黄) を含む分子を発見しました。
もちろん、地球が生命が居住可能な天体であることは誰もが知るところですが、答えを知っている天体で観測機器を運用することは、木星の氷衛星の観測という本番に向けた重要なテストということになります。
MAJISは可視光線と近赤外線にまたがる波長の領域で画像撮影と観測を行い、実に1016種類もの異なる波長を見分けることができます。
一方でSWIはMAJISと比べ、CHNOPS元素を含む分子の観測に特化してしています。
今回のテストでは水、酸素、二酸化炭素のような基本的な分子に加え、オゾン、一酸化炭素、メタン、亜酸化窒素のような少量ながらユニークな分子を見つけることにも成功しました。
木星の周回軌道に乗った本番の際、MAJISは木星の雲や大気の成分、氷衛星にある薄い大気や氷に含まれる微量の鉱物を調査する予定です。
またSWIは、木星と氷衛星の組成を詳しく調査し、現在だけでなく過去の歴史や起源について推定する手掛かりとなるデータを取得します。
これらの観測機器は、生命活動で生じる分子も、原理的には観測可能な性能を持っています。
参考文献
- “Juice confirms that Earth is habitable”. (Sep 10, 2024) ESA.