宇宙空間に孤独に浮かぶ一つの銀河が、人類の最先端の宇宙望遠鏡によって、かつてない詳細さで観測されています。レチクル座に位置する棒渦巻銀河「NGC 1559」は、地球から約3500万光年の距離にあり、その姿は二つの異なる「目」によって捉えられました。
二つの目で見る宇宙の輝き
ハッブル宇宙望遠鏡は、275nmの紫外線から1600nmの近赤外線まで、実に10枚の異なる波長の画像を組み合わせてNGC 1559を観測しました。特に注目すべきは、656ナノメートルの波長で観測される水素のHα輝線です。この波長は、新しい星が誕生する過程で放出される紫外線によって電離された水素原子からの光を捉え、銀河内での活発な星形成活動を鮮やかな赤やピンク色の領域として私たちに示してくれます。
一方、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、二つの主要な観測装置を駆使してこの銀河を観測しています。
中間赤外線観測装置(MIRI)は星間塵の輝きを捉え、将来の星形成の燃料となる星間物質の分布を明らかにしました。
また近赤外線カメラ(NIRCam)は、大量の塵に隠された若い星々の光や、若い星々の周囲にある電離されたガス雲からの放射を観測することに成功しています。
PHANGSプログラムが開く新たな扉
JWSTでNGC 1559を捉えたこの観測は、PHANGSチームによる意欲的な研究プログラムの一環として行われました。
このプログラムでは、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)や、ハッブル宇宙望遠鏡などですでに観測された55の銀河を、JWSTでも観測する計画が進められています。
特筆すべきは、このプログラムがトレジャリープログラムとして位置づけられていることです。
これは、得られた観測データが即座に科学コミュニティや一般公開されることを意味し、より多くの研究者が迅速にデータを活用できる利点があります。
孤独な旅人の物語
NGC 1559は秒速約1300キロメートルの速度で私たちから遠ざかっていく途上にあります。
見かけ上は私たちの近傍銀河である大マゼラン雲の近くに位置しているように見えますが、これは錯覚です。
実際のNGC 1559は、近隣に伴銀河を持たない孤独な存在であり、どの銀河団にも属していません。
その巨大な渦状腕には活発な星形成領域が豊富に存在し、中心部には特徴的な棒状構造が見られます。緩やかに巻かれた渦状腕は不規則な形状を示し、その中には明るく輝く星形成領域が散りばめられています。
人類の知の結集
2009年から現在に至るまで、世界中の天文学者たちはNGC 1559の観測を通じて、電離ガスや星形成の研究、超新星の追跡観測、変光星の観測によるハッブル定数の測定など、様々な科学的課題に取り組んできました。
二つの宇宙望遠鏡による観測データを組み合わせることで、私たちは宇宙全体における星の誕生、生涯、そして死の過程について、かつてないほど詳細な理解を得ることができるようになりました。
3500万光年の彼方に輝くNGC 1559は、最新の観測技術と人類の英知の結集が、宇宙の神秘をどこまで解き明かすことができるのか、その可能性を私たちに示し続けているのです。
参考文献