地球に巨大な小惑星が衝突し、文明存続の危機に陥るリスクはどのくらいあるのでしょうか?小惑星の軌道予測精度の問題から、数百年後に衝突する恐れは限りなく低いものの、ゼロにすることはできていませんでした。この問題は主に、小惑星の軌道が時間経過により不確実性が増大し、精密な軌道を求めるための計算量が膨大になることに由来します。
コロラド大学ボルダー校のOscar Fuentes-Muñoz氏などの研究チームは、小惑星の軌道が地球に極めて接近する期間の長さを推定するアプローチにより、甚大な被害をもたらす恐れがある直径1km以上の小惑星について、少なくとも今後1000年間に衝突する恐れは極めて低いことを導き出きました。Fuentes-Muñoz氏は今回の研究成果を「私たちが知る限り、今後1000年間衝突はない (As far as we know, there’s no impact in the next 1,000 years)」と端的に表現しています。
天体衝突による文明崩壊はどれくらいのリスク?
6600万年前の白亜紀末、地球に直径約10kmの小惑星が衝突し、大部分の恐竜などが大量に絶滅する事変が起こりました。
1km以上の小惑星が衝突すれば、急激かつ極端な環境改変により、現代の私たちの文明に致命傷を与えると考えられています。
NASAは、1km以上の小惑星が衝突する確率は数百万年に1回であると推定しています。
白亜紀末の大量絶滅の原因が天体衝突であると明らかにされた1990年代には、木星にシューメーカー・レヴィ第9彗星が衝突する様子もリアルタイムで観測されたこともあり、小惑星衝突による文明存続の危機は真剣なリスクとして捉えられるようになり、これにまつわる「惑星防衛 (Planetary Defense)」と呼ばれるようにました。
1998年にはアメリカ議会からNASAへ、直径1km以上の小惑星の公転軌道を90%以上発見するよう要請した通り、世界中で小惑星観測とリスク評価が進みました。
現在、「地球近傍天体 (NEO)」は95%が発見されていると推定されており、1km以上の危険な小惑星は、少なくともここ100年間は衝突しないことが分かっています。
しかし、それ以上の未来については、引き続き衝突リスクはかなり低いと考えられているものの、ゼロにすることはできませんでした。
これは、小惑星の軌道の変化に不確実性があるためです。
小惑星の軌道は、地球やその他の天体から受ける重力の影響で少しずつ、しかしカオス的に変動します。
数百年という長い期間に渡って正確な公転軌道を算出することは、計算量が膨大になりすぎるという問題との戦いとなっていました。
少なくとも西暦3000年までは大丈夫そう
Fuentes-Muñoz氏らの研究チームは、「MOID (最小交差距離)」に注目した研究を行いました。
これは地球と小惑星との公転軌道がどのくらい接近しているのかを表す値であり、端的に言えば、MOIDが地球半径より小さければ、それは小惑星が地球と衝突することを表します。
公転軌道の変化に焦点を当てたシミュレーションよりも計算量が少なく済むという利点があります。
一方で、今回のアプローチはMOIDの値が最小をゼロとした最大値を求める方法なため、衝突確率がゼロか否かを判断することはできません。
ただしそれでも、MOIDが極端に小さな値を取る確率が極めて低い場合、それは衝突確率が事実上ゼロであると言うことができます。
Fuentes-Muñoz氏らは、1km以上の直径を持つ地球近傍天体に対してシミュレーションを行い、西暦3000年までの間にMOIDが150万km (0.01au) 未満になる小惑星を150個程度と推定しました。
地球近傍小惑星でも、特に衝突確率が高いとされる「潜在的に危険な小惑星 (PHA)」の基準がMOIDが750万km (0.05au) 未満であることを考えれば、これはかなりのニアミスです。
次に、絞られた候補についてさらに詳細に検討し、MOIDが1LD (月の公転軌道である約38万km) 未満にまで接近する小惑星を28個まで絞り込みました。
これについて1個1個検討することで、最終的な衝突の恐れを評価しました。
今回の研究で最も衝突リスクが高いと判定されたのは7482番小惑星「1994 PC1」です。
MOIDが1LD未満である期間は西暦3000年までの1000年間の実に97.8%に達します。
その間に衝突する確率は0.00151%であり、他の小惑星より1桁高い確率となっています。
しかし、1994 PC1が最も危険と判定されたのは、西暦2525年に地球に最接近し、地球の重力によって軌道が変更され、軌道変化の不確かさが上がったためです。
裏を返せば、1994 PC1は少なくとも西暦2525年までは衝突しないことが分かっています。
他の小惑星は、全体の期間を通じてさらに衝突確率が低いことから、より危険性は低いと評価できます。
そして、地球近傍天体全体で全体の95%が発見済みであり、1km以上の直径を持つ地球近傍天体はこの記事の執筆時点で865個見つかっていると見られています。
その中のごく一握りでさえ、衝突する可能性が極めて低いことを考えれば、未発見の天体が極めて危険な公転軌道を持つのは考えにくい可能性です。
未だに未発見の地球近傍天体は、地球にあまり接近することがないために観測を逃れていると考えられ、これは将来に渡っても地球に接近しにくいことを示唆します。
これらのことから、少なくとも今後1000年間は、地球に直径1km以上の小惑星が衝突する恐れは事実上ないと言うことができます。
Fuentes-Muñoz氏は今回の研究成果を「私たちが知る限り、今後1000年間衝突はない (As far as we know, there’s no impact in the next 1,000 years)」と端的に表現しています。
小惑星の監視はこれからも続く
もちろん、この研究はあくまで西暦3000年までの1000年間を対象としています。
MOIDが150万km (0.01au) 未満になる期間が数千年以上続く小惑星は1994 PC1以外にも314082番小惑星「ドリュオプス」や143651番小惑星「2003 QO104」などいくつかあるため、小惑星の軌道は引き続き監視を継続していく必要があります。
また、今回は地球全体に影響を与えるような、1km以上の小惑星を対象としました。これに対し、例えば2013年にロシアのチェリャビンスク州に落下した直径17mの小惑星など、小さなサイズの小惑星は地球全体に影響は与えずとも、都市単位では影響を与えうることになります。小さな小惑星の発見割合は小さいと考えられており、これらの早期の発見も課題であるとFuentes-Muñoz氏は語っています。
参考文献
- Oscar Fuentes-Muñoz, et al. “The Hazardous km-sized NEOs of the Next Thousands of Years”. The Astronomical Journal, 2023; 166 (1) 10. DOI: 10.3847/1538-3881/acd378
- Jonathan O’Callaghanarchive. (May 15, 2023) “Earth is probably safe from a killer asteroid for 1,000 years”. Massachusetts Institute of Technology.