SKAにはpathfinder(パスファインダー)と呼ばれる装置群があります。
SKA-pathfinderとはSKAにつながる研究や技術開発につながる装置を、SKAOが認定するものです。
写真中になにやら不思議な地形が見えますが、実はこれ電波望遠鏡なのです。二種類のアンテナが写真中に隠されています。今回の題材はこの電波望遠鏡、LOFAR(LOw Frequency Array)です。ヨーロッパをまたぐ巨大な望遠鏡は、最先端の科学を牽引しています。
LOFARはSKA-pathfinderに認定されています。
LOFARとは
LOFARはオランダの天文学研究機関であるASTRONを中心に運用されている電波望遠鏡です。
低周波干渉計を意味する「Low frequency array」の頭文字をとってLOFARと呼ばれています。
観測周波数は10−240MHzで、SKAが完成するまでこの周波数帯では世界で最も感度の良い望遠鏡になります。

ヨーロッパを跨いだ電波望遠鏡であることがわかる
Credit: ASTRON
電波干渉計の一種で、複数のアンテナを繋げて観測することであたかも一つの大きなアンテナであるかのように見立てて観測します。
注目して欲しいのがそれぞれの局の配置です。
アンテナの大部分はオランダ国内にありますが、ドイツ、イギリス、フランス、スウェーデンにもアンテナが配置されています。
これにより最大基線長約1000kmが達成されました。
この基線長が現時点での世界最高感度を達成しているのです。
2018年にはイタリアにも局が設置され、さらにLOFARは拡大しています。
LOFARの特徴
LOFARには二種類のアンテナがあります。
10〜90MHzを観測するLow Band Antennas (LBA)と110~250MHzを観測するHigh Band Antennas (HBA)です。
LBA

M. P. van Haarlem et al. 2013
LBAの観測周波数は10~90MHzとありますが、実際に観測しているのは30~80MHzです。
これは<30MHzの低周波側と>80MHzの高周波側の両方でFMラジオなど、人工電波の干渉によって観測が制限されてしまうからです。
また、干渉計として運用するためにはアンテナの大量生産が必要です。
大量生産を可能にするために低コストな設計がなされています。
一基のLBAアンテナは2本の銅線で構成されたダイポールアンテナとなっていますが、それを支え、同軸ケーブルを通すポールはPVC製のパイプが採用されています。
地面には金属メッシュを利用したグランドプレーンが設置されています。
HBA

M. P. van Haarlem et al. 2013
HBAの観測周波数は110MHz〜250MHzと設定されています。
しかし、240 MHz以上はRFI(電波干渉)が多いため、こちらも実際の運用帯域は110–240 MHzに制限されています。
HBAはタイルのように敷き詰められています。
このタイル一つ一つは偏波アンテナ素子で、このタイルが4×4の正方形で配置されているのです。
各タイルの大きさは5m×5mで発泡ポリスチレンの構造がアルミニウムでできたアンテナを保持しています。
一般的な望遠鏡と異なり、LOFARのアンテナは物理的に駆動しません。
その代わりに「フェーズドアレイ」という技術を用いて指向や駆動するようにしています。
このフェーズドアレイはASKAPも使用しています。
ASKAPとLOFARの違いはフェーズドアレイをパラボラに搭載しているのか、フェーズドアレイのみで利用しているのかというところにあります。
フェーズドアレイを用いてビームフォーミングすることにより、素早く別の方向をみたり複数の観測を同時に行ったりすることが可能になっています。
LOFARのもう一つの特徴は各ステーションが独立した電波望遠鏡として機能することです。
一般的な電波干渉計は、基本的には単体では不完全です。
しかし、LOFARは一つのステーションで観測する方向を決定し、データを処理し記録することができます。
単一ステーションのみでの運用は太陽フレアやパルサーの観測に使用できます。
LOFARのサイエンス
LOFARは低周波の大型汎用電波望遠鏡として多くのサイエンスを目標に掲げています。
具体的には
- 宇宙再電離
- 遠方銀河サーベイ
- トランジット天体とパルサー
- 超高エネルギー宇宙線
- 太陽科学と宇宙天気
です。
今回注目したいのが、「太陽科学と宇宙天気」に関連する惑星間空間シンチレーション(IPS)による太陽風観測です。
通常、太陽風の密度は極めて低いため、それ自身が発する電磁波を観測することができません。
そこで用いられる方法が天体電波源の「瞬き」を利用する方法です。
この「瞬き」は惑星間シンチレーションと呼ばれ、太陽風中にあるプラズマの密度ゆらぎによって発生します。
密度ゆらぎによって生じる電波のパターンは太陽風の流れにともなって変化するので、強度変動パターンを複数のLOFARステーションで観測することで太陽風の速度がわかるのです。
また、IPSの強さは太陽プラズマの密度に関する情報ももたらしてくれます。
日本でも名古屋大学宇宙地球環境研究所を中心としたグループがIPS観測を主な目的とした革新的な電波観測装置を開発しています。
LOFARやASKAPで用いられているフェーズドアレイを発展させた独自のデジタルフェーズドアレイ技術を開発し、太陽嵐の予測に向けた研究を進めています。
こうした宇宙天気予報の発展は人類の安全な宇宙活動に貢献するものです。詳しくは以下をご覧ください。
参考:名古屋大学 宇宙地球環境研究所太陽圏研究部(SW研)HP
名古屋大学はこうした太陽風観測用の設備を豊川、木曽、富士の3箇所で運用しています。
3つの観測施設での検出が、太陽風の詳しい情報を与えてくれます。

海外の望遠鏡と日本の研究者の研究の関連に注目です。
参考文献
- M. P. van Haarlem et al. 2013 A&A 556, A2
- 10 YEARS OF LOFAR HIGHLIGHTS(2020)
- LOFAR | ASTRON
- 科研費基盤研究(S) 研究概要