この記事では、我々の住む天の川銀河の成り立ち、名前の由来、構造の詳細、そして中心に存在する巨大ブラックホールについて解説します。最新の天文学研究を通じて、銀河の全貌が明らかになりつつある天の川銀河の姿に迫ります。
天の川銀河とは
天の川銀河とは我々が住む太陽系に属している銀河のことをいい、銀河系とも呼ばれます。
その年齢は約130億年と推定されています。
名前の由来
そもそも天の川という名前の由来はどこからきているのでしょうか?
英語で表記すると「Milky Way」ですが、これはギリシャ神話「女神のミルクがほとばしって天の川になった」という由来からきています。
また、ギリシャ語でミルクは「gala(ガラ)」と呼ばれます。
英語で銀河のことをgalaxyと言いますが、この語源から来ているのですね。
もっというと、天の川は中国語で天漢(てんかん)、銀漢(ぎんかん)と呼ばれているので、「漢」には天の川という意味もあります。
ぜひ辞書で引いて確かめてみてください。
余談ではありますが、天文学の世界では「galaxy」と「Galaxy/the Galaxy」は別々の意味として使い分けています。
前者は一般的な銀河のことを指し、後者は天の川銀河(銀河系)のことを指します。
私も最初は混乱していましたが、色んな文献で見かけるので知っておくと便利です!
天の川銀河の構造
天の川銀河は弱い棒構造を持つ渦巻銀河の1つで、バルジ(膨らみのある中心部)、円盤部(ディスク)、バルジと円盤部を丸く取り囲むハローという大きな構造で構成されています。
円盤の直径は約10万光年で、約1000〜2000億の星があると言われています。
そして、太陽系は中心部から約2万6000光年離れた円盤部に属していて、約2億年かけて天の川銀河を一周しています。
太陽系は誕生から約50億年経過したと言われているので、その間に太陽系は天の川銀河を25周したという計算になります。
天の川銀河を構成する物質
円盤の質量の8〜9割は星で、1〜2割は星間物質です。
星間物質とはその名の通り、星と星の間に存在する物質のことです。
星間物質の一種である原子ガスや分子ガスの主成分は水素であり、また水素は宇宙で最も豊富な元素です。
円盤の外縁部などの低密度領域では、水素は(中性)原子ガスの状態で存在します。
一方、円盤の内側部分などの高密度領域では、水素は(中性)分子ガスの状態で存在します。
円盤にある渦状腕の部分では星や星間物質の密度が少し高くなっており、星の形成率が高く若い星が多数分布しています。
一方、ハローとバルジは比較的古い星が多数分布していますが、バルジでは最近でも新しい星が生まれていることが明らかになってきました。
ハローには星が約10万個集まった天体である球状星団が点在しており、ガスは非常に高音なガスとして存在しています。
これは超新星残骸(超新星爆発の後に残る天体)から噴き上げられてきたものが原因ではないかと考えられています。
巨大ブラックホール
実は、バルジの中心領域には太陽の400万倍の質量を持つ巨大なブラックホールが存在しています。
ブラックホールはアインシュタインの一般相対性理論によって生み出された産物で、光を放たない漆黒の天体であるため我々は直接みることはできません。
しかし、周囲で光り輝くガスによって中心の暗い領域(シャドウ)として観測することができます。
実際に、イベントホライズンテレスコープ(EHT)が2022年に天の川銀河中心のブラックホール(いて座A*)の撮影に成功しました。
さらにリングの大きさがアインシュタインの一般相対性理論の予言と非常に一致していることが確認されています。
現在は、巨大ブラックホールの周りでガスの振る舞いに関する理論やモデルのさらなる検証も始められているそうです。
ちなみに初めてブラックホールの撮影が成功したのは2019年のことで、M87の中心にある巨大なブラックホールを観測しました。
当時ニュースで大々的に発表されたのでご存知の方が多いかも知れません。
天の川銀河中心のブラックホールの画像と見比べてみるとよく似ていますが、天の川銀河中心のブラックホールの質量はM87中心のブラックホールより1000分の1以下と言われています。
多波長でみる天の川銀河
波長ごとに見える天の川銀河の描像も様々です。
下の図は天の川銀河を10の波長領域でみた画像です。上から順に、電波(0.4GHz)、水素原子、電波(2.7GHz)、水素分子、赤外線、中間赤外線、近赤外線、可視光、X線、γ線を表しています。
星からの放射は主に紫外線領域の空を満たし、ダストやガスからの放射は主に赤外線領域の空を占めます(ダストやガスは星からの光を吸収し赤外線として再放射するため)。
また、一つ前の節で解説した天の川銀河内の水素ガスの分布を調べるために、星間物質によって遮られる紫外線や可視光ではなく電波を観測することで解析していました。
このように同じ天体(ここでは天の川銀河)でも、観測する波長によってその姿も変化するのでとても興味深いですね。
以上のように、我々の住む天の川銀河の姿が徐々に明らかにされてきましたが、天の川銀河の形成や進化に関する謎は未だに多く残されています。
2023年に打ち上げられたX線天文衛星「XRISM(クリズム)」によって天の川銀河の中心領域などがより明らかになるかも知れません。
今後も、天の川銀河の最新の研究に注目です。
参考文献
天の川銀河の地図をえがく
著者: 郷田直輝
旬報社
シリーズ現代の天文学第1巻「人類の住む宇宙」
著者: 岡村定矩、池内了、海部宣男、佐藤勝彦、永原裕子編
日本評論社
活きている銀河たち 銀河天文学入門
著者:富田晃彦
恒星社厚生閣