皆さんは晴れた日の夜空を見上げたことはありますか?夜空に輝く星のほとんどが、我々の住む銀河系「天の川銀河」の星々です。そしてひとたび銀河系を離れると、そこにはさらに無数の銀河の世界が広がっています。この宇宙には1000億個もの銀河が存在していると言われており、銀河系もその1つにすぎません。宇宙に存在する銀河がいつ、どのように形成・進化していったのかを解明することは、現代天文学の重要なテーマの1つです。
銀河とは
銀河は太陽のような星が数千億個ほど集まった、夜空で目立つ美しい天体です。
非常に大きな天体ではありますが、宇宙のもっとも基本的な構成要素であり、銀河を理解することは宇宙そのものへの理解につながります。
銀河は「星」だけではなく、「星間物質(ガス、ダスト)」、「ダークマター」で構成されており、各要素の複雑な相互作用が絡み合った系で、非常に多様な姿をしています。
この記事では、この美しい見た目をもとに銀河の性質を理解しようとした、現在でもよく知られる試みを紹介します。
銀河の分類
生物の分類を行うことで生物の起源や進化の過程を理解するのと同様に、銀河の分類を行うことで銀河の起源や進化の過程を理解することができます。
ここではまず、巨大銀河の形態分類について紹介します。
形態分類とは「見かけの形状」に基づいて銀河を分類する手法です。
形態と銀河の様々な物理量には良い相関があるため、形態分類は銀河の物理過程を理解する一助となります。
銀河の分類に初めて本格的に取り組んだのは1900年代初頭のレイノルズでした。
この頃はまだ銀河が銀河系の外側にあることすら明確ではありませんでした。
しかし、1936年により複雑な分類法の基礎を築いたのはハッブルで、それがいわゆる有名なハッブル分類と呼ばれる巨大銀河の形態分類の基本となりました。
ハッブル分類
ハッブルは、数100個の銀河を可視光の写真を使ってグループ分けし、図を作成しました。
それは音楽に使う音叉を横にしたように見えるため、ハッブルの音叉図(tuning fork diagram)と呼ばれています(図1)。
音叉図で表される系列をハッブル系列といいます。
音叉の柄の部分は「楕円銀河(Elliptical galaxy:記号E)」、叉の部分は「渦巻銀河(Spiral galaxy:記号S)」と、中心部(バルジ)に棒構造のある「棒渦巻銀河(Barred spiral galaxy:記号SB)」からなっています。
さらに細かく見ていくと楕円銀河の分類型はEnのように表記され、nは見かけ上の扁平率を表しています。
ここで数字n(0-7)は、長軸の長さをa、短軸の長さをbとしたとき、10(1-b/a)を計算し小数点以下を切り捨てた整数値で、円形のE0から始まり、数字が大きくなるほど銀河が平たくなることが分かります。
銀河の本当の形が完全な球体でなくても、見る向きによっては真円に見えることがあります。
したがって、写真では真円に見えるE0銀河が、本当に球体かどうかは単純に判断できません。
渦巻銀河は、バルジと円盤部(ディスク)の明るさの比や渦状腕(アーム)の巻き込み度合いに基づいて分類されています。
ディスクの比が大きい銀河は、一般にアームの巻き方がゆるくなっています。ただしこれに関しては個性が大きいです。
バルジとディスクの比を渦巻銀河を分類するときに重視し、腕の巻き込み方も参考にしながらバルジの寄与が大きいものから小さいものへ、Sa/SBa、Sb/SBb、Sc/SBcと分類されています。
また、SaとSbの中間的形状に見えるものは、Sabと表記しています。
ちなみに、SBという記号に対比させ、棒構造のない銀河をSAと示すこともあります。
ハッブル系列で楕円銀河と渦巻銀河の中間の形態であるS0銀河が仮想的に導入されましたが、その後観測によってその存在が立証されました。
また、上記の銀河に含まれない数%の割合で存在する対称性の悪い銀河を不規則銀河をIrrとしました。
マゼラン雲のようなIrrをI型(Irr I)、M82のような銀河をII型(Irr II)に分類しています(下記画像参照)。
音叉図の左側になるほど早期型(early type)、右側になるほど晩期型(late type)と呼ばれます。
これは当時、ハッブルが音叉図上で銀河が左から右へと進化しているのではないかと推測したためそのような用語が用いられていました。
しかし、それが間違いであることはすぐに明らかとなりました。
なぜなら楕円銀河と渦巻銀河の回転速度を調べたときに、楕円銀河はゆっくり回転しているのに対して渦巻銀河は速く回転しているからです。
楕円銀河がひとりでに回転を速めることは現実的ではないため、楕円銀河から渦巻銀河に進化することはできません。
ただ、早期型銀河や晩期型銀河の分類用語は現在でも使用されています(進化に関連づけているわけではありません)。
改訂ハッブル分類
ハッブル以後、様々な観点から多種多様な形態分類が提案されました。
ド・ヴォークルール(G. de Vaucouleurs)によってハッブル分類はさらに細分化が進み、ド・ヴォークルール分類または改訂ハッブル分類と呼ばれるものが登場しました。
渦巻銀河に対して、Scよりもさらに晩期型のSdとSmを追加し、不規則銀河のI型をIm、II型をI0(アイゼロ)としました。
棒構造の多様性を示すため、SAとSBの中間的なタイプであるSABを導入しました。
また、渦巻構造の多様性を表すために、r(リング)、rs(中間)、s(スパイラル)という分類基準を導入しました(図2)。
改訂ハッブル分類は図2に示すように立体的な分類となっています。
一番上の立体が分類の全体像を表しています。ハッブル系列が水平に中心軸に沿って配置されており、中心軸に垂直な断面に多様な渦巻構造の特徴を展開する形になっています。
その下の両側の図は、中心軸に垂直な断面内での棒構造(A,AB,B)と渦巻構造(r,rs,s)の配置の仕方を表しています。
下の図は、Sc型の位置での断面内に分類される銀河の模式図です。
ちなみに我々の住む天の川銀河は、改訂ハッブル分類ではSABbcに分類されます。
弱い棒構造を持つ渦巻銀河で、アームの巻き方が緩くなっていると考えられています。
最後に
実は、銀河の分類を体験できるサイトがあります。
それが、国立天文台の「市民天文学」プロジェクトという、天文学者と一般市民が協力しながら銀河の謎に挑戦する「GALAXY CRUISE」です。
このサイトは誰でもアクセスが可能で、広大な宇宙を「航海」しながらすばる望遠鏡が撮影した銀河の形態を分類していくものです。
実際に私も挑戦しましたが、操作も簡単で気軽に参加できるので、ぜひクルーザーの一員になってみることをお勧めします!
この非常に美しい天体である銀河が、どのように形成され、進化していったのか調べることは、私たちがどこから来たのかを知る重要な手がかりに繋がります。
今回ご紹介した「分類」から始まった銀河の研究ですが、実は現在でも謎は多く残されています。
例えば、渦巻銀河の渦巻き構造がどのように形成されていったのかは未だにはっきりと分かっていません。
今後、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡などの他に、JWST(ジェイムズ・ヴェッブ宇宙望遠鏡)や将来の観測により銀河に深く関わるダークマターの正体やブラックホールの謎も明らかになるかもしれません。
次回以降の記事では、そこから明らかになる最先端の銀河の研究についてもご紹介したいと思います。
銀河ギャラリー
参考文献
シリーズ現代の天文学第4巻「銀河Ⅰ-銀河と宇宙の階層構造」
谷口義明、岡村定矩、祖父江義明編
日本評論社
銀河-その構造と進化-
著者:S.フィリップス,監訳:福井康雄,訳:竹内努
日本評論社
活きている銀河たち 銀河天文学入門
著者:富田晃彦
恒星社厚生閣
AstroArts-星を見る・宇宙を知る・天文を楽しむ-
https://www.astroarts.co.jp