国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、X線分光撮像衛星(XRISM:クリズム)に搭載された2つの主要装置を使用した最初の観測データ、いわゆる「ファーストライト」の結果を公開しました。ファーストライトとは、新しい装置が最初に宇宙を観測し、その機能が予定通りに動作しているかどうかを試験的に確認することです。
一度の観測で銀河団全体を捉える広視野
公開された画像の一つは、軟X線撮像装置(Xtend:エクステンド)で捉えられた銀河団「Abell 2319」のものです。この銀河団は、地球から約7億7000万光年離れており、現在他の銀河団と衝突している過程にあります。画像では、X線を放射する高温のガス(プラズマ)が紫色で示されています。これまでのX線望遠鏡、例えばNASAの「Chandra」やJAXAの「すざく」、「あすか」などでは、視野が限られていたため、銀河団の中心部のみを観測するか、複数回に分けて全体像を捉える必要がありました。しかし、Xtendを使用することで、銀河団の広範囲を一度の観測で捉えることが可能になりました。
この広視野の観測は、銀河団同士の衝突プロセス全体を理解する上で非常に重要です。それにより、銀河団や宇宙の大規模な構造がどのように進化しているかについての理解が深まることが期待されています。
多波長観測と高い波長分解能
この画像は、軟X線分光装置(Resolve:リゾルブ)で観測された超新星残骸「N132D」のスペクトル、つまり異なる波長での電磁波の強さを表しています。
天体に含まれる原子や分子は、特定の波長の電磁波を吸収したり放射したりします。スペクトルに現れる吸収線(谷)や輝線(山)を分析することで、天体に含まれる物質の種類や量、さらには天体の移動速度を知ることができます。
灰色の「すざく」のスペクトルと白色「Resolve」のスペクトルを比較すると、「すざく」では見えなかった輝線が「Resolve」ではたくさん見えていることがわかります。多くの輝線が見えることで、ガス中の元素の種類や量をより詳細に分析できるようになります。
超新星残骸「N132D」は、太陽系から約16万3000光年離れた大マゼラン星雲にあります。これらの輝線の分析により、この超新星の起源となった恒星内部や、超新星爆発によって作り出された元素に関する詳細な情報が得られ、星々や生命の起源についての新しい知見が期待されます。
2024年2月まで初期機能の確認運用を続け、その後は定常運用の段階へ移行する予定とのことです